率直な感想
PAT-Transerを導入後初めて、4,500ワードほどの明細書(すでに勉強した分野)を訳出してみました。
まだ公開訳との精査をしていないのではっきりとは言えませんが、なんというか一言でいうと、
すごくいい
です。
とにかく楽だし、処理スピードのアップは間違いなさそうです。処理スピードがどのくらい上がったかは、公開訳と比較・精査してからご報告します。
導入のメリット
①重要でない文に掛ける時間を削減できる
一つの特許明細書を翻訳するにあたって、「全文が超重要!」ということは少ないと思います。必ずサラッと訳せる部分と、時間と労力をたっぷりかけるべき部分というのが存在します。
ほとんどの明細書に共通する「重要な部分」は【請求項】や【要約】など。個人的に表現に工夫が必要だと感じるのが【背景技術】。長文が多く、文の構造が分かりにくいことも多く、より自然な日本語を求められる部分です。
サラッと訳せる部分の例としては、具体例の羅列や定型文など。
具体例を挙げてみます。(WO2015/164290より抜粋)
原文:Some non- limiting examples of humectants include sorbitol, honey, propylene glycol, and glycerin.
Tradosと秀丸で訳す場合、まず秀丸で文章を切断します。
Some non- limiting examples of humectants
include
sorbitol, honey, propylene glycol, and glycerin.
ここで、羅列されている具体例の物質名は、Tradosの用語集、辞書、インターネットで調べます。(重要な物質名は構造や特性を調べる必要がありますが、ここでは重要でないと判断しました)
秀丸で原文の真下に訳文を打ち込みます。
Some non- limiting examples of humectants
湿潤剤のいくつかの比限定例には、
include
~が挙げられる。
sorbitol, honey, propylene glycol, and glycerin.
ソルビトール、はちみつ、プロピレングリコール、グリセリン
最後に、3つの文を1つにまとめて、完成。
作成した訳文:湿潤剤のいくつかの比限定例には、ソルビトール、はちみつ、プロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。
Pat-Transerを使った場合はどうでしょう。

原文が短く、文の構造が単純なこともあって、原文を編集せずにほぼ完ぺきな訳文を出せました。
一応羅列される物質名の根拠を調べますが、これもPAT-Transer搭載の辞書を参照できるのでラクチンです。

もし正しく訳されなかったり、1つの物質名に複数の訳語がある場合は、別途調べます。
②入力の手間が省ける
例えばこんな文。
原文:Emulsions may also contain from about 1% to about 10% or from about 2% to about 5%, of an emulsifier, based on the weight of the carrier.
化学分野の明細書ではよく見かける、重量の割合についての記載です。これを一から全部手入力するとなるとけっこう手間ですが、PAT-Transerなら負担を軽減できます。しかも数字の間違いも起こらない(私は今のところないです)。

今度はちょっと文章構造が複雑なせいもあって、微妙な訳文になりました。原文を編集してみます。

先ほどより少し見やすくなりました。この訳文を編集して、文章を組み立てれば完成です。
訳文:エマルジョンはまた、キャリアの重量を基準として、約1重量%~約重量10%の、または約2重量%~約5重量%の乳化剤を含有してもよい。
③重要な部分により多くの時間を掛けられる
上記の①②などの理由から、重要な部分の訳出や事前の調査などにより多くの時間をかけることができます。これが一番うれしい。
使用に関する課題
文の切断にコツがいる
これはまだまだ調査中なのですが、かなり良い訳を出してくれる場合と、単純な構造の文であってもよい訳が出ない場合があります。
なるべく1セグメントが単文になるように文を切断しているのですが、「私が区切りたい切れ目」と「PAT-Transerにとって訳しやすい切れ目」が少し違うのではないかと思います。
特に、関係代名詞や過去分詞はなかなか一発では良い訳を出してくれません…。
まだまだ出てくる操作不明点
一通り使用できるようになりましたが、まだまだ不明点があります。
例えば、
- 自動で行われる翻訳ロックの無効化
- 単語の学習
- 一文内での翻訳メモリと機械翻訳の同時使用←これは解決できそう!
などです。
もうちょっと調べて分からなかったら問い合わせてみます。
まとめ
まとめると、「思った以上に役立ちそう」と確信しています。
特に特許分野の翻訳とはかなり相性がいいと思います。
実は非特許分野のトランスクリエーションが必要な翻訳でも試したのですが、こちらはあまりうまく活用できませんでした。
もう少し検証して、具体的にどれほど翻訳作業の効率化に貢献してくれているかも後日書いてみたいと思います。
興味深く記事を拝見させて頂いております。
私はPatTranserをメインで使用していますが、記事にあるように、単純な文ほど時間が節約でき、数値の打ち間違いがまず起こらないため、大変便利だと実感しています。
複雑な文は、単純な構造になるまで切ってしまっていますが、例えば、関係代名詞、to不定詞、so as to、in order to、などなど、そこで切ってしまうこともあります(切り方の好みも大いにあるかと)。
ただ、切り方を間違えると誤訳してしまう場合も大いにあるので、コンテキストや技術内容をしっかりと踏まえることが重要かと(自分に言い聞かせながら毎回切ってます)。
それと「フレーズ機能」を使うと、想定通り認識され、スッキリとした訳文が出力される場合もあるかと思います。
また、されていると思われますが、訳文のメモリ登録は、切った文とマージした文をそれぞれ登録するのが良いです。切った部分が後ほど出てくることが多々あるので。
あとは、単語の学習機能は、案件毎の用語統一に便利かと思います。ですので、案件毎に単語の学習機能のファイルを個別に保存するのがお勧めです。
長くなってしまいましたが、まだ自分が気づいていない使い方などを期待していますので、今後の記事も楽しみにしております。
失礼いたします。
nasa様
コメント&アドバイスいただき、ありがとうございます。
>ただ、切り方を間違えると誤訳してしまう場合も大いにあるので、コンテキストや技術内容をしっかりと踏まえることが重要かと(自分に言い聞かせながら毎回切ってます)。
これは本当に同感です。一文に戻すときに係り受けなど間違えないように、そこは特に丁寧に作業する必要がありますよね。
「フレーズ機能」については、ちょうど今日勉強していてやっとその全容を理解できました。正直TMのマッチについてはTradosの方が得意なのかなと思いました。私は切った文をPatTranser、マージした文をTradosにメモリ化しているのですが、お互いの得意・不得意を見ながら、このままPatTranser + Tradosで進めるのか、PatTranser一本にするのか決めていく予定です。
>案件毎に単語の学習機能のファイルを個別に保存するのがお勧めです。
そうなんですね!「単語の学習機能」はまだ理解不足で勉強中なので、ぜひやってみます。
PatTranserについては、まだまだ勉強&使い方改善の余地があるので、これからも記事を書いていく予定です。
どうも、ありがとうございました。
申し訳ない。少々言葉たらずたっだかもしれません。
>正直TMのマッチについてはTradosの方が得意なのかなと思いました。私は切った文をPatTranser、マージした文をTradosにメモリ化しているのですが、
私も同じで、翻訳時は切った文をPatTranser、マージした文をTradosにメモリ化にしています。
理由は、比較的長い文の場合、マッチしている文を確認・修正するには、Tradosの方が見やすいし、仰るとおりTradosの方が得意な感があります。
ただ、最終的には、Tradosでメモリ化した部分はPatTranserの方へインポートしています。
ですので、PatTranser + Tradosで進めるのがよいかなと個人的に思います。
そうだったんですね、失礼いたしました。
実はPatTranser + Tradosでやるよりも、PatTranserで2ファイル作って(切った文のファイルとマージした文のファイル)進めた方が、
TMのPatTranser⇔Trados間での共有を考えると早いのかな?と思ったりしていたので、ちょっと勘違いしていました。
いずれにしてももう少し使ってみて、自分にしっくりくる方法を模索していこうと思います。
アドバイスいただき、ありがとうございました!